Standing Tinco Belay

目指せセクシー登山部

単独 厳冬期 白山 縦断(一里野~石徹白/上在所)


2023/1/1~1/6に単独で厳冬期の白山を北から南へ約40kmの縦断をした(一里野~石徹白/上在所)。
空と地面の境界もわからないホワイトアウトや、爆風の中で完遂できた満足の登山だった。
個人的な冬山技術面での革新は、イグルーとスノーシューである。去年、イグルスキー@米山さんの講習で習得したイグルー技術があったからこそ、悪天になったらイグルーを作れば良いと鷹揚な気持ちで縦走が継続できた。結局使用したのは1日のみだが、風に強いイグルーはテントに比べてとても安心だった。またスノーシューの浮力/機動力は素晴らしく、ワカンだと今回の縦走は完遂できなかったと思う。
自分を受け入れてくれた山と天気に感謝したい。そして1月の白山を単独で登ることができて改めて嬉しく思う。

1/1 晴のち雪 6:30一里野登山口~10:00檜倉~16:09 1570m地点 
 今回初めて使用するスノーシューが調子良く、快調に歩みをすすめる。そうはいっても重荷のせいかスキー場のゴンドラ終点まで3時間近くかかる。うまくいけば奥長倉避難小屋までたどり着けるかと思ったが、檜倉を超えるとスノーシューでのラッセルとなり、1570m地点の木のふもとで幕営

1/2 雪 10:00 1570m地点~15:15奥長倉避難小屋
 朝の炊事中に、一酸化炭素中毒で失神した。前夜も実は水作り中にぶっ倒れていたのだが、中毒に気づくこと無く疲労困憊のせいかとそのまま寝てしまった。しかし2度目となる朝の失神はかなり危険で、本当に死ぬところだった。朝は外が吹雪いていたのでテントの入り口はごく小さく開けていたのだが、換気が不十分だったようだ。炊事中に倒れたあと、何分後かはわからないが運良く意識を取り戻すことができた。必死で這いつくばってテントの外へ頭を出した。吹雪も関係なく、手を地面に付き肩で息をすることを何分か続けた。自発的に酸素を取り入れることができず、肩の動きと弱った心臓の動きが連動している感覚があって、もし肩で息することを止めたら心臓は止まってしまうだろうと直感した。死への恐怖を感じる余裕もないほど死に近づいた感覚があった。思い返すほどに恐ろしい。原因としては換気不足だが、何年間もこのような経験はなかったので、ジェットボイルのバーナーが不調で完全燃焼できてなかったことや、通気性のないクロスオーバードームとの組み合わせが良くなかったと思う。
体調が少し戻ってきたように感じた10時ごろにテン場を出発したが、まだ一酸化炭素が体に残っており全然足が進まない。空荷でラッセルしてトレースをつけた後に歩荷することを何回か繰り返した。1,2時間すると調子が少しずつ戻ってきてなんとか奥長倉避難小屋にたどり着いた。

1/3 雪~晴 6:10奥長倉避難小屋~14:30四塚山
 雪庇に気をつけながら縦走を続ける。樹林帯の中なので目標物があり雪庇のケアはしやすい。ただガスのため視界は開けず、特異な滝壺で有名な百四丈滝は見えなかった。樹林帯を超えてしばらく経った四塚山で、少し時間は早いがイグルーを作ることにした。去年何回か作ったが、まだ慣れないイグルーは完成するのに結局3時間かかってしまった。夕方になると晴れてきた。

1/4 ホワイトアウト~風雪~晴 11:00四塚山~15:00御前峰2702m~16:00南竜山荘避難小屋
 朝6時に出発しようとするもホワイトアウトで全く周りがわからない。1m先が空なのか地面なのか、そして地面の傾斜も全くわからない。前日に尾根上には雪庇が形成されていないことは確認していたが、視界が無い状況では怖くて足が進まなかった。イグルー内で待機し、太陽が上って少しホワイトアウトが弱くなったように感じた11時頃に無理やり出発。雪玉を足で転がしたりピッケルで地面を叩くことで、何度も地面の傾斜を確かめながら文字通り石橋を叩くようにして進んだ。大汝峰あたりに着くと視界は少しマシになったがきたが風も強くなった。ホワイトアウトナビゲーションや、GPSを使って現在地確認しながら一気に御前峰に登頂し、室堂経由で南竜山荘まで下山。このあたりは雪崩の危険性が気になっていたが、幸い雪は安定していて問題なかった。室堂や南竜山荘へ行く途中は樹氷の立ち並ぶ素晴らしいゲレンデとなっており、次回はスキーで滑りたいと強く感じた。

1/5 曇り雪~ホワイトアウト~強風雪 6:15南竜山荘~15:30三ノ峰避難小屋
 縦走を続けるマシンと化した自分に対するささやかな抵抗として、ノロノロと朝の準備をした。ホワイトアウトは怖いし動きたくない。それでも出発し、南竜山荘から少し下ってから約200mほど登り返して稜線に出る。稜線にでると風が非常に強い。ホワイトアウトのせいで進路がわからなくなったり、変な斜面に入ってしまうことも何度かあったが、あの手この手で縦走を続けてなんとか三ノ峰避難小屋までたどりついた。特に氷化した斜面の下がハイマツ帯や岩で空洞になっている場所は、踏み抜いてバランスを崩すと非常に危なく、スノーシューをアイゼンに履き替えることを手間だけど何度か行った。入り口が埋まった三ノ峰避難小屋を掘り返して泊まる。

1/6 ホワイトアウト~曇り~のち晴 6:30三ノ峰避難小屋~10:15神鳩ノ宮避難小屋~11:50石徹白登山口~14:42上在所
 朝方は曇っており視界が無くて行動が難しかったが、段々と晴れていき、銚子ヶ峰をすぎる頃には晴れ渡って春山のような雰囲気だった。スノーシューを活かして駆け足で石徹白の登山口まで下る。標高を下げるほどに、春のようなザラメ雪が足を柔らかく包み込んで下へいざなってくれた。最終日にして気が緩んだのか左足太腿に出てきた筋肉痛のような鈍痛をかばい、雪に埋もれた林道をノロノロと5km歩き上在所へ下山。

 

感想
技術的な面で言うと歩きが主なので、日程の余裕と多少の悪天でも動けて好天時には一気に歩みを進める能力さえあれば達成できるのかなと思う。また白山は初めてだったので雪崩について不安を感じていたが、地形図から予想する雪崩リスク地点の積雪は安定しており今回は危険性をほとんど感じなかった。